振り返り(反出生主義とは)
前回のブログでは「反出生主義」についての概要を把握できる本を紹介しました。
※前回ブログは下記から御覧ください。
https://meigen-hon-shoukai.com/hannshusseishuginituitemanaberuhonshisouhenn/
さて反出生主義とは「人間が生まれてくることや、人間を生み出すことを否定する思想」1です。
このような思想は昔から多くの文学者が扱ってきました。
今回はそのような文学作品を紹介していきます!
反出生主義について取り扱っている文学作品5選
1.ファウスト
名言:「ああ、わたしは生まれなければよかったのに」
充実度 | 4 |
読みやすさ | 2 |
この世界の知識をすべて知った老ファウスト博士は、知を極めたところでこの世に生きる意味を手に入れる事ができないと嘆きます。
そんな老ファウスト博士の下に悪魔であるメフィストが現れて、ファウストを満足させることが出来たら、魂をもらうという約束を交わします。
その結果若返ったファウストですが、好きになった相手の兄を誤って殺害したり、その相手も自分の母親を殺害したり、ファウストとの間に生まれた子を殺害したりと踏んだり蹴ったりの展開を迎えます。
名言として紹介したセリフは、そんな折ファウストが叫んだ言葉です。
どん底に落ちたファウストはここからこの世に生きる意味を見出すことはできるのでしょうか、、。
反出生主義には「人生に意味があるのか」といった人生の意味の哲学につながる問題もあります。
自分も不幸せだし、自分と一緒にいる相手も不幸せにしてしまう、、果たしてそのような状態でも生きる意味を見いだせることはできるのでしょうか。
ぜひ読んでみてください。
2.コロノスのオイディプス(「オイディプス王」の続編)
名言:この世に生を享けないのが、すべてにまして、いちばんよいこと
充実度 | 4 |
読みやすさ | 3 |
名言で紹介しているセリフはオイディプス王の続編である『コロノスのオイディプス』でのセリフです。
『オイディプス王』とは皆さんも一度は聞いたことがあるかもしれない「エディプスコンプレックス」の由来となった作品です。
『オイディプス王』は古代ギリシャのテバイにいるライオスという王に捨てられたオイディプスの物語です。孤児として育てられたオイディプスは成長した後、父であるライオスをそうとは知らず殺してしまい、また自分の母親である王の妻と結婚をし子供ももうけます。しかしやがてすべての真実を知ったオイディプスは人生を嘆き、自分の両眼に針を刺すことで盲目となってしまうのです。
先ほど紹介したファウスト同様踏んだり蹴ったりの展開を迎えたオイディプスの心境を表しているセリフです。
現実世界で絶望の淵に立つことはもちろん避けたいですが、文学作品を通して疑似体験をすることでより自分事として生きる意味を考え直すことができるのではないでしょうか。
3.夏物語
名言:みんなが生まれてこんかったら、なにも問題はないように思える。(中略)人間は、卵子と精子、みんながもうそれを、あわせることをやめたらええと思う。
充実度 | 5 |
読みやすさ | 3 |
哲学的な話題をテーマに小説を描くと捉えられがちな川上未映子さんの作品です。
38才独身の主人公である夏子は周りの人の結婚や出産などを通じ「自分の子どもに会いたい」と思うようになります。
相手がいない夏子は偶然見た特集番組で、精子提供に興味を持ちその方法にて出産することを考えます。その過程で出会った人との考え方を通して、出産することや生きることについて考えていきます。
前篇・後篇合わせて1000枚の長編作品ですが、するすると頁をめくってしまいます。
名言で紹介したセリフは、ベネターが提唱するような段階的に人類が滅亡していく方法です。
果たして人類が存続することは必要なのか等、大きな問題まで考えることができますね。
4.生を祝う
充実度 | 4 |
読みやすさ | 4 |
名言:「本当にその通り。『合意なき出生』は最悪だし、出生を強制する人って、ほんと最低。親として許せない」
名言で言及されている通り、出生を拒んだ胎児を出産した場合は罪に問われてしまう、、そのような出生の有無を胎児自体が選択できる未来が舞台の作品です。
胎児は生まれる親の経済状況、社会的地位、自身の容姿、障害の有無等を数値化した結果算出される生存難易度を参考にしながら出生を判断するとされています。
自分にとって生きやすい社会だとわかった上でも出生を否定することはあるのか、、反出生主義を考える上でより自分ごとになる作品です!
実は反出生主義という考え方には、細かく分けると2種類あります(反出生主義研究の第一人者である森岡さんによる)。
一つは自分が生まれてきたことを否定する「誕生否定」もう一つは人間を新たに生み出すことを否定する「出産否定」。
この二つは密接に結びついていますが根本的には異なる考え方です。
李琴峰さんの「生を祝う」は正しく「出産否定」を取り扱った作品です。
これから新たに子供を作ることを考えている方についても一度は考えるかもしれないテーマですね。
5.河童
充実度 | 4 |
読みやすさ | 3 |
名言:「お前はこの世界へ生まれてくるかどうか、よく考えた上で返事をしろ。」
続いても「出産否定」がテーマの小説です。
芥川龍之介による「河童」の世界では、出産の際腹の中の子に出生の意思を確認する場面があります。人間には”今のところ”できない出生の意思確認を行うことで、人間の価値観を問い直すことにつながります。
ただしこのような標語も喧伝されます。「健全なる男女の河童よ。悪遺伝を撲滅するために不健全なる男女の河童と結婚せよ」。悪遺伝とは何か、、ナチスの問題やハンセン病の問題など出産と「血」について考えさせられる文章ですね、、
まとめ
今回は紹介ができませんでしたが、旧約聖書におさめられた『コーヘレト書』にも反出生主義的思想が散見されます。
『コーヘレト書』については成立は紀元前5世紀から前4世紀の頃と言われています。
古来より人類が考えていた「反出生主義」という思想。
現在でも言及されることが多い問題です。
是非皆さんも今回紹介した文学作品を通じて考えてみてください!
気になった本や関連本はaudiobookでも聞いてみてください♪
- 森岡正博 「生まれてこないほうが良かったのか? 生命の哲学へ!」 ↩︎
コメント